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札幌高等裁判所 昭和58年(ラ)39号 決定

抗告人 清田レイ子

相手方 清田真三

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  申立

抗告人は「原審判を取消し、本件を旭川家庭裁判所に差し戻す。」旨の裁判を求め、その理由として、「(一)相手方から抗告人に対して交付された金200万円は、相手方から抗告人に対して贈与されたものであるが、または、相手方が抗告人に対し与えた精神的損害に対する慰藉料として支払われたものである。(二)仮に、右金員が財産分与の対象となるとしても、当事者間の婚姻の破綻については相手方に責任があり、抗告人は相手方に対して金99万円を下らない額の慰藉料を請求しうるものであるから、これと相手方が財産分与として取得すべき原審認容の額とを対当額をもつて相殺する。」旨主張する。

二  理由

1  抗告理由第一点について

当裁判所も抗告人は相手方に対し原審判認容の限度において財産分与をすべきであると判断するが、その理由は、原審判理由説示と同一であるから、これをここに引用する(ただし、原審判4枚目表4行目の「考慮すると、」の次に「一件記録によるも他に特段の事情も認められない本件においては、」を加える。)

2  同第二点について

(一)  一件記録によるも、抗告人主張の離婚慰藉料の額が法律上確定したものとは認められない。

(二)  財産分与請求に対し、未確定の離婚慰藉料をもつて相殺しうるか否かについては学説上争いのあるところであるが、家事審判手続における相殺の抗弁に対する判断には、既判力類似の効力が生じないから、これを積極に解すると自働債権の存否が不確定となり、法律関係が複雑化することとなるので、これを消極に解するのを正当とする。

3  その他、記録を精査しても原審判を取消すべき事由はこれを見出すことができない。

三  結論

以上のとおりであつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 舟本信光 裁判官 長濱忠次 吉本俊雄)

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